ボサノヴァを聴こう
軽やかなリズムと涼やかな響きが心地いいボサノヴァ。カフェやショップでBGMとしてセレクトされることも多く、耳にしたことがある方も多いはず。この洗練された音楽は、どのようにして生まれたのか、皆さんはご存じですか?
ボサノヴァが誕生したのは1958年。ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで誕生しました。当時、ブラジルではサンバが主流。カーニヴァルで踊る音楽で、ブラジルの国民音楽として大流行していました。一方、その時期にコパカバーナやイパネマ地区に住む富裕層の若者たちが集まって聴いていたのはアメリカのジャズでした。伝統的で力強く賑やかなサンバに対し、静かで都会的な音楽を好んだ彼らは、サンバに当時アメリカで流行していたクール・ジャズのエッセンスを加わえて、新しい音楽スタイルを生み出します。
それがボサノヴァ。ボサは「やり方」、ノヴァは「新しい」で、ボサノヴァは新しいやり方という意味があります。軽やかに跳ねるようなリズム、ささやくようなヴォーカル、洗練されたハーモニーが特徴で、「踊る」ためのサンバに対しボサノヴァは「聴く」ための音楽と言われます。
ボサノヴァの最初の楽曲は、アントニオ・カルロス・ジョビンが作曲し、外交官でもあったヴィニシウス・ヂ・モライスが作詞した『Chega de Saudade(邦題・想いあふれて)』。この曲がボサノヴァの音楽的スタイルを決定づけたとされ、1960 年代に入るとボサノヴァはアメリカで注目され、世界的なブームとなっていきます。
そんなボサノヴァでまず聴きたい5曲、知っておきたい5人のアーティストをBAR BOSSA店主であり、著書やCDライナー執筆も多数手がける林伸次さんがセレクト。解説ともにお楽しみください。
まずは聴きたいボサノヴァの5曲
Chega de Saudade / 想いあふれて
ボサノヴァ第1号の記念碑的な曲です。「サウダージ」というポルトガル語特有の言葉「あなたが今ここにいなくて寂しい」という気持ちが「シェガ」、「もうあふれてしまいそうだよ」という恋心を歌った曲です。
The Girl from Ipanema / イパネマの娘
リオにイパネマという美しい海岸があります。その海岸へと向かう道を、いつもある美しい女性が過ぎ去っていくのを、「僕」がひとりで見つめています。僕はその彼女の美しさに心を震わせるのですが、という片思いの曲です。
Wave / ウェーブ
ジョビン作曲でインストゥルメンタルで最初は発表されましたが、ジョビン本人が書いた歌詞もありフランク・シナトラをはじめ、たくさんの歌手がカヴァーしています。この曲が収録された『WAVE(波)』というアルバムが、ボサノヴァはリゾートで聴くゆったりとした音楽というイメージを決定づけました。
Agua de Beber / おいしい水
アストラッドの「ディバディバ」というスキャットで始まる録音が大ヒットし、「スキャットとボサノヴァ」というイメージを決定づける曲です。邦題は「おいしい水」ですが、歌詞は「水を飲むように(自然に)、私の心の扉も開いていたい」という意味です。
Mas Que Nada / マシュ・ケ・ナダ
オリジナルはジョルジ・ベン作ですが、セルジオ・メンデス&ブラジル’66で大ヒットしました。それまではアメリカではボサノヴァはジャズ・ミュージシャンが演奏するのが主流でしたが、この曲以降、ロック・ミュージシャンも多く取り上げるようになりボサノヴァが全世界へと広がるきっかけとなりました。
ボサノヴァと言えば!知っておきたいこの5人

Antônio Carlos Jobim /
アントニオ・カルロス・ジョビン
ボサノヴァの多くの名曲の作曲家。ラヴェルやショパンのようなクラシックや、ブラジルの伝統的な古いサンバの音楽も愛しました。生前、『イパネマの娘』がザ・ビートルズの『イエスタデイ』に次ぐヒット記録を達成したと聞かされて、「ビートルズは4人だけど、僕はひとりだから」と答えたそうです。

Astrud Gilberto /
アストラッド・ジルベルト
ボサノヴァの女王と称されました。現代の世界中のいわゆるボサノヴァ的な歌い方は、彼女からの影響を受けているといってもいいと思います。極度のあがり症で、プロ・デビューした後に、それを克服するためにステラ・アドラー・アカデミーという演技学校に通ったそうです。

João Gilberto /
ジョアン・ジルベルト
ボサノヴァのあのギターのリズムとあの囁くような歌い方を発明した人です。パーティー嫌いとして有名で、パーティーに誘われたときは、「そのパーティーに僕が知らない人がいるかどうか。いたら行きたくない」と断っていたそうです。

Stan Getz
/ スタン・ゲッツ
アメリカのサックス奏者。ジャズ演奏家ですが、1960年代にボサノヴァと出会い、多くのボサノヴァの名盤を録音、発表しました。彼はジャズの名盤もたくさん残していますが、「私が死んだときにはイパネマの娘のサックス奏者として書かれるだろう」と自嘲気味な言葉を言っていたそうです。

Elis Regina /
エリス・レジーナ
ブラジルの国民的歌手です。パワフルな歌い方で、ヨーロッパやアメリカでも大活躍しました。思い立ったらすぐに行動する人で、ヒタリーという女性アーティストが妊娠中に刑務所に入れられたのを知り、エリスが刑務所に現れ、「妊婦をこんな場所に閉じ込めるなんて」と看守を怒鳴りつけたそうです。
今回、執筆いただいたのは・・・
東京都渋谷区にあるボサノヴァをテーマにしたワインバー、BAR BOSSAの林 伸次さんです。BAR BOSSAでは、おいしいおつまみや季節のチーズとワイン、そしてボサノヴァを愉しむことができます。
お店の雰囲気を味わいたい方は林 伸次さんセレクトのプレイリストをチェック!
林 伸次(BAR BOSSA)
1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年にbar bossaをオープンする。2001年、ネット上でBOSSA RECORDをオープン。選曲CD、CDライナー執筆多数。著書に『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』『バーのマスターは、「おかわり」をすすめない』(ともにDU BOOKS)、『ワイングラスの向こう側』(KADOKAWA)、『大人の条件』『結局、人の悩みは人間関係』(ともに産業編集センター)、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』(幻冬舎)などがある。